累積黒字の考え方
- 概説 -

Ver. 1.4.6
このページについて

このページは、当サイトの 簡略版文書(PDF)
公開していたオリジナルの経済学試論を
HTML で書き換えたものです。🛎️ 簡略版PDFをそのまま書き換えた上で
少し加筆しました。

現時点では突貫工事の暫定版とお考えください。

想定する読者

拙論は、次のような方におすすめです。

  • 従来の経済学に基づいた経済理論および経済政策論に
    疑問・違和感・限界を感じ、
    新しい視点を求めている経済の専門家、有識者。🛎️ 経済学部生の研究対象・卒論の題材にも
    よいかと思います。
    変わり種が好きな方には
    特におすすめです。
  • 現代の日本経済・世界経済がどうしてうまくいかないのか、
    その真相を探りたい一般の方。

難易度は極めて低いので、
標準的な高校生くらいの知識や読解力でも
問題なく理解できると思います。🛎️ 従来の経済学の知識は不要です。 🛎️ 通読にかかる時間は、
2~3時間程度でしょうか。

なお、筆者は従来のマクロ経済学について、
これほど不自然で奇怪で突っ込みどころ満載な学問
そうそうないと思っています。

筆者がマクロ経済学に対して抱く数々の違和感を
姉妹サイト(ブログ)にまとめていますので、
よろしければこちらもどうぞ。

はじめに

  • 前置きは不要と感じられる方は次章へお進みください。

「貧富の格差の緩和」とは何をすることか

広く認識されている通り、近年の日本では、
貧富の格差 が社会問題になっています。

貧富の格差を完全に解消する必要はありませんが、
大幅に緩和する必要はあるでしょう。

そこで質問です。
貧富の格差の緩和とは、
何をどうすることだと思いますか。

質問が漠然として答えにくいかもしれませんが、
難しい答えを期待しているわけではありません。

次のような、無難で凡庸な答えを想定した質問です。

  • 非富裕層の家庭に 生活の余裕 を、
    中小・零細企業に 経営の余裕 を感じてもらえるようにする。
  • 国と地方の財政については、これ以上の悪化は避けたい
  • 富裕層については、とりあえずそのまま でよい。

極めて常識的な方針ですね。

多くの人にとって、
「貧富の格差の緩和」と言えば
このようなイメージでしょう。

でも駄目なのです。
筆者の考えが正しければ、この時点で無理筋 なのです。

なぜなら、上記の要件を同時に満たすのは
基本的に不可能だからです。

閉じた経済でなら完全に不可能と言ってよい

詳しくは後述しますが、
「国際収支がプラスマイナスゼロ」という条件を付けると、
前述の3要件を全て同時に満たすのは
完全に不可能であると言っても差し支えないと考えています。

完全に不可能かはともかく、
これらの要件を同時に満たそうとすると、
厳しい制約 が立ちはだかるのです。

その制約の存在を認識しないまま経済運営を行っても、
うまくいくことはまずありえません。

実際、日本に限らず、貧富の格差の緩和を目指しながら
うまくいっていない国は多いでしょう。

そうなるのも当然です。
経済政策論争の土台となる経済学が
不可欠な視点を欠いているのですから。

この文書は、上記の常識的な方針に含まれる
致命的矛盾 を明らかにし、世に訴えるためのものです。

単純かつ深刻な盲点

簡略版とはいえ短くはない文書ですが、
内容は極めて平易です。

標準的な高校生くらいの知識と読解力でも、
難なく大筋を理解できるでしょう。

従来の経済学の知識はほとんど不要です。

言い換えれば、それほどまでに単純な視点を欠いたせいで
日本経済や世界経済はここまでおかしくなってしまったのだと、
筆者は確信しています。

経済再生の糸口を長年探し続けるも行き詰まり、
従来の経済学とは異なる視点が欲しいとお悩みの方、
きっと無駄にはならないと思いますので、
少々のお時間をいただければ幸いです。🛎️ 2~3時間ほどで
通読できるかと思います。

それでは、本論に入ります。

簡略版について

このページは、当サイトの 簡略版PDF文書 を
HTML 文書にしたものです。

「簡略版」は、先に作成した「詳細版」から、
主張の根幹をなす部分を抽出したものです。

読者の方に、最低限の時間と労力
筆者の主張の要点を理解していただくことを
目的として作成しました。

その際、語弊や誤解が生じることを恐れず
大胆に内容を削減したので、
「簡略版」だけでは読者側に疑問や反論が残る可能性が
比較的高いと思います。

本格的に興味を持たれた方は、
ぜひ「詳細版」を併せてご覧ください。

<累積黒字の考え方> の説明の準備

「累積黒字」の定義

以下、個人及び、国や都道府県・市町村、
企業、財団などの法人のことを、
まとめて「経済主体」と呼ぶことにします。🛎️ 通常の経済学用語です。

筆者が注目するのは、各経済主体の「累積黒字」です。🛎️ こちらは一応独自用語と位置付けています。
従来の経済学ではあまり使われない用語ですし、
使われるとしても、
この文書における意味と同一かどうか
定かではないと思われるためです。
🛎️ もっと良い用語がなかったかと
ずっと悩み続けておりますが…

それぞれの経済主体について、
ある時点で保有する貯金から
借金を差し引いた額だと思って下さい。

例えば、貯金の総額が1000万円で、
ローン残高が700万円の個人なら、
その個人のその時点での累積黒字は
 1000万-700万=300万円
という具合です。

なお、誰かにお金を貸している場合は、
その金額をプラス計上します。
今後「貯金」という言葉を使う場合は、
他者への貸し付け分も含むものとします。

貯金より借金が多い場合は累積赤字と呼んだ方が
分かりやすいかもしれませんが、
累積黒字がマイナスであるとして扱います。

例えば、現代日本の場合、
(法人としての)国は数百兆円単位の赤字でしょうから、
国の累積黒字額はマイナス数百兆円であると考えます。

経済主体の分類

では次に、国内の経済主体全てを、
6つの集合  に分類します。

 は、法人「国」だけからなる集合とします。🛎️ 国を法人と考えてよいかについては
異論もあるかもしれませんが、
拙論では重要でないのでご容赦ください。

 は、全ての地方公共団体(都道府県、市区町村)からなる集合とします。

累積黒字が一定以上の法人を「富裕法人」と呼ぶことにして、
 は、国内の富裕法人全体の集合
(ただし、 に含まれる法人は除く)とします。

 は、 のいずれにも含まれなかった法人「非富裕法人」の集合とします。

また、累積黒字が一定以上の個人を「富裕個人」と呼ぶことにして、
は、国内の富裕個人全体の集合とします。

は、に含まれなかった個人「非富裕個人」の集合とします。

  • 法人「国」のみからなる集合
  • : 国内の 地方公共団体 全体の集合
  • : 国内の 富裕法人 全体の集合
  • : 国内の 非富裕法人 全体の集合
  • : 国内の 富裕個人 全体の集合
  • : 国内の 非富裕個人 全体の集合
経済主体の分類の名称について
  • 「富裕法人」「非富裕個人」といった表現には若干違和感もありますが、
    分かりやすさを優先しました。
  • 「富裕個人」「非富裕個人」の「個人」は、
    「世帯」と置きかえて考えてもかまいません。

「富裕法人」のイメージは、
好業績を続けて膨大な預貯金を保有する、
中堅以上の企業のことだと思ってください。

「富裕個人」のイメージは、数千万円以上の貯金を有し、
お金の心配をする必要がほとんどない人のことだと思ってください。

どの集合に含めるか迷うような法人や個人もあるでしょうが、
それは適当に基準を決めて1つの集合に入れておけば問題ありません。

重要なのは、全ての経済主体が、
 のうちいずれか1つの集合に
もれなく重複なく含まれていること。

そして、明らかな富裕層が全て
明らかな非富裕層が全て含まれていることです。

このようにすると、国内の全ての経済主体を
 に分類することができます。

そして、各集合に含まれる経済主体の累積黒字の合計 を、
それぞれ  と表すことにします。

さらに、国内の全ての経済主体の累積黒字の合計を
「国全体の累積黒字合計」と呼び、 で表すことにします。
もちろん、法人「国」の累積黒字()とは別です。

こうすると、

M= +M +M +M

となります。難しくないですよね。

この等式は、常に成り立ち続けます。
その制約下で、中央政府や地方政府としては、
(非富裕法人の累積黒字合計)
(非富裕個人の累積黒字合計)値が上がるように、
あるいは下がらないようにと注意しながら
経済をコントロールしたいわけです。

ではここで質問です。
国全体の累積黒字合計()が変動する要因を
考えてみてください。

国全体の累積黒字合計(M)が変動する要因

2者間の取引における累積黒字の増減

前章の最後で、国全体の累積黒字合計()が
変動する要因を探すよう促しました。

いきなり国全体について考えるのは難しいので、
まずは、最も単純な2者間の取引で、
その2者の累積黒字の合計が変化するケース を探してみましょう。

ここに、2人の個人PさんとQさんがいるとします。
以下、国内での取引をイメージしてください。

売買 から見ていきます。
PさんがQさんにある品物を1万円で売りました。

このとき、Pさんの累積黒字が1万円増えると同時に、
Qさんの累積黒字が1万円減ります。

よって、この2人の累積黒字の合計は変化しません。
もちろん、国全体の累積黒字合計()にも影響はありません。

贈与 でも似たようなものです。

お金をもらった側の累積黒字が増え、
その分だけ、お金をあげた側の累積黒字が減ります。
やはり、この2人の累積黒字の合計は変化しません。

貸与 ならどうでしょうか。
PさんがQさんに1万円を貸します。

この場合は、Pさんは現金1万円を手元から失いますが、
Qさんに対して1万円の債権(お金を返してもらう権利)生じます。
よって、Pさんの累積黒字は変化しません。

一方、Qさんは手元に現金1万円を得ますが、
同時にPさんに対して1万円の債務(お金を返す義務)生じます。
よって、Qさんの累積黒字も変化しません。
やはり、この2人の累積黒字の合計は動きません。

このように、2人の間で取引をしている限り、
その2人の累積黒字の合計を変化させるのは、
基本的に不可能 です。

すなわち、誰かの累積黒字が増えれば、
必ず他の誰かの累積黒字が、
同じ額だけ減るということです。

逆に、誰かの累積黒字が減れば、
必ず他の誰かの累積黒字が同じ額だけ増えています。

もちろんこれは、常に成り立つべき原則です。

もしPさんとQさんの累積黒字の合計を
この2人の取引だけで増やせるなら、
それを2人で結託して実行し、
増えた分を山分けすればよいことになります。

それでは貨幣経済は成立しませんから、
むしろ崩れてはいけない原則です。

国全体に広げて考えると

前述の2者間の取引による累積黒字の変化の話は、
国全体にも当てはまります。

国内の経済的取引によって
ある経済主体が累積黒字を増やした場合、
必ず、国内の他の経済主体の累積黒字が
同じ額だけ減っています。🛎️ 累積黒字が減った経済主体が
1つであるとは限りませんが、
合計で同じ額だけということです。

その場合、国全体の累積黒字合計()は変化しません。

逆に、ある経済主体が累積黒字を減らしたのであれば、
その分だけ他の経済主体の累積黒字が
増えていることを意味します。

それが国内の取引であるならば、
やはり国全体の累積黒字合計()は変化しません。

すなわち、国全体の累積黒字合計()が変動する要因は、
せいぜい国際間の取引くらいしかない のです。

よって、国際収支の黒字分や赤字分を除けば、
M の値は一定 ということになります。🛎️ 通貨発行や株価の上昇によって
 の値は大きくなるのでは、
と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、
筆者は否定的な立場です。
それらの要素については、また後で触れます。

ゼロサムへの反射的な拒絶はお避けください

上に述べたことはゼロサム的な考え方ですが、
それを理由に拒絶反応を起こすのはお避けください。

確かに、経済は非ゼロサムというのが通説ではあります。

ただ、それは、全ての経済主体の所得が増加することは
ありうるといった意味です。
そのことは筆者も否定しません。

しかし、累積黒字についてはどうあがいてもゼロサムなのです。
すなわち、全ての経済主体の累積黒字が
増加することは基本的にありえません
🛎️ そうでなければ貨幣経済は
成り立ちません。

従来の経済学がその事実を無視していることが、
現代経済をここまでおかしくしてしまった根本原因だと確信しています。

どのような値であれ、
国全体の合計値が変化しないというのは、
非常に強い制約です。

以降の章では、この制約に注目し、
現在の日本経済で起きていることの本質と、
その解決策を探ります。

1つの経済主体の周りに対する影響

「ある経済主体以外の累積黒字合計」に注目

一般的に、放漫経営企業は社会に害を、
優良経営企業は社会に益をもたらすと信じられています。

その説は正しい面もあるのでしょうが、
「その企業以外の累積黒字合計」に対する影響に注目すると、
違った面が見えてきます。

放漫経営企業の場合

「放漫経営で膨大な赤字を抱え、倒産した企業」
このような企業がニュースで扱われる場合、
「放漫経営の結果、消費者及び
 この企業に対する債権者に多大な迷惑をかけた」
という論調になることが多いでしょう。

筆者も、それを否定する気はありません。

しかし、放漫経営により、
ある会社の赤字が膨らんだということは、
その会社以外の経済主体の累積黒字が
それだけ増えたということでもあるのです。

放漫経営のおかげで、どこかの誰かが
儲かっていたことは間違いありません。

腰を据えて考えてみましょう。
この企業の累積黒字をで表すことにします。
この企業の業績によって、の値は変動します。

この時、この企業以外の経済主体の
累積黒字の合計は M-a で表されます。

国全体の累積黒字合計()は
完全に一定(定数)と見なすことにしますと、
M-aの値はの値だけで決まります。

ここまではよろしいでしょうか。

何もないところから企業を起こし(a=0)、
放漫経営で赤字を抱え(a<0)、
倒産して債権・債務を処理されて
再び何もなくなった(a=0)場合、
この企業以外の経済主体の累積黒字の合計(M-a)は
どのように変化しているでしょうか。

この企業が創業する前は、a=0 なので、
M-a は国全体の累積黒字合計()に一致しています。

 は一定ですから、 が一旦マイナスになることで、
M-a は一時的に上昇しました。🛎️ M-a が  よりも
大きい値になったということです。

この時点では、この企業が赤字に転落した分、
どこかの誰かが儲かっていたことになります。

その後、この企業は倒産して、 はゼロに戻りました。
よって、M-a は、この企業が
創業する前の水準 に等しい)まで下落します。

これは、この企業に対する債権者が
損害を被ったことを意味します。
この企業に貸したお金が返ってこなくなったことにより、
この企業に対する債権者の累積黒字が下落したわけです。

ということで、紆余うよ曲折ありましたが、最終的には、
この企業を除いた経済主体の累積黒字の合計(M-a)は、
この企業の創業前と比べて変化しないことになります。

意外に思われる方もいるかもしれませんが、
この放漫経営企業は、長期的には、
この企業以外の経済主体の累積黒字の合計(M-a)に
悪影響を与えていないのです。

もちろんこれは、M-a という合計値だけに
注目した場合の話です。

企業を信用して融資・投資した金融機関や投資家を
放漫経営で裏切って損をさせた責任は
あるとの意見も正しいと思います。

しかし一方で、この企業は、
自身を除く経済主体の累積黒字の合計(M-a)を
低下させる存在ではなかったわけです。
そのことも、事実として正しく認識する必要があります。

以上を念頭に、次は優良経営企業を見てみましょう。

優良経営企業の場合

さてここに、好業績を上げ続け、
巨大な預貯金を保有する企業があるとします。

それは、巨大な累積黒字を持つこととほぼ同義です。
前述の経済主体分類では「富裕法人」(集合)に属する企業です。

この企業の累積黒字を  で表すことにします。
 は、この企業の業績によって変動します。

この企業を除く国全体の累積黒字の合計は M-b です。
 を一定と見なすと、
M-b の値は  の値だけで決まります。

そして、この企業は黒字続きですから、
 はどんどん大きくなり続けているわけです。

ということは、M-b は、
bが大きくなるのと同じ速さで
小さくなり続けていることになります。

言い換えれば、この企業の累積黒字が増えた分だけ、
この企業以外の法人や個人の累積黒字が
減っているということです。

すなわち、この企業の巨大な累積黒字は、
他の経済主体の累積黒字を
大幅に低下させることによって実現されたものです。

とげのある物言いに聞こえるかもしれませんが、
これは否定しようがないはずです。

他の経済主体の累積黒字を減少させることなく、
自社の累積黒字を増大させることはできないのですから。

この企業が、どんなにクリーンな方法で
預貯金の山を築いていたとしても、
その事実に変わりはありません。

しかも、このような優良経営企業は、
消滅することがありません。
これもまた、放漫経営企業との大きな違いです。

放漫経営企業は、企業自身の累積黒字()の変動により、
その企業以外の累積黒字合計(M-a)に影響を与えますが、
その企業の倒産によって M-a の値は
その企業の創業前の水準 に等しい値)戻ります。

つまり、その企業が他の経済主体の累積黒字に与える影響は、
M-aという合計値だけを見れば
リセットされるわけです。

一方、優良経営企業は、
自身の累積黒字()の増加によって
その企業以外の累積黒字合計(M-b)を
減少させるわけですが、
優良経営企業は放漫経営企業と違って倒産などしません。
したがって、M-b の値は小さくなったままなのです。

しかも、この企業が優良経営を続ければ、
M-b はさらに小さくなり続けるのです。

では、M-b の値を回復させるには
どうしたらよいのでしょうか。

簡単です。
 の値が一定なのですから、
b の値を小さくする以外にありません。

すなわち、預貯金を吐き出してもらうしかありません。

他の企業や消費者、国・地方の政府がどのように行動しようと、
この企業の累積黒字()が減らない限り、
この企業以外の経済主体の累積黒字の合計(M-b)が
回復することはありえないのです。🛎️ 優良経営企業だけでなく、
富裕個人についても同じことが言えます。
ただ、一般的には企業の方が
社会に対する影響が大きいと考えて、
企業で話を進めました。

累積黒字の偏り

日本経済で起きていることの本質

昨今の日本経済では、
貧困問題が深刻化してきたことからも分かるように、
明らかに富の分配がうまくいっていません。

一体何が起きているのか。
それは、次のように考えればしっくりくると思います。

国全体の累積黒字合計()に関し、
次の等式が常に成り立つのでした。

(M+M) (M+M) (M+M)
政府部門 富裕層 非富裕層

そして  は、国際収支による増減を除けば一定です。(これが重要)

前述の通り、大幅な黒字決算を続ける企業は、
他の経済主体の累積黒字を押し下げ続けています。

このような優良経営企業が1つだけなら
社会全体に対する影響は限定的かもしれませんが、
実際にはたくさんあります。🛎️ そのような法人の集合を  としました。

多くの富裕法人が黒字決算を続け、
富裕法人の累積黒字合計()が上昇した場合、
 が一定であることから)それら以外の経済主体の
累積黒字合計(M-M)は必ず低下します。

富裕個人の累積黒字合計()が増えた場合も同様です。

つまり、富裕層の累積黒字合計(+M)が大幅に伸びれば、
政府部門や非富裕層の累積黒字合計+M+M+M)が
大幅に低下することは避けられないのです。

しかも、現行制度では、
富裕層の累積黒字合計(+M)は
いくら上昇しても構わないことになっています。

現在の日本経済は、要するにそういう状態なのでしょう。

資本主義経済下の競争の過程で、
富裕層の累積黒字合計(+M)は伸び続けてきた。

それはすなわち、富裕層以外の累積黒字合計+M+M+M)が
低下し続けてきたことを意味する。

その結果、富裕層の累積黒字合計(+M)が非常に高い値になり、
かつ富裕層以外の累積黒字合計+M+M+M)が
非常に低い値になってしまった、と。

現在の日本は、そのような <累積黒字の偏り> に
苦しんでいると考えて間違いありません。

現実には、日本の  は一定ではなく、
国際収支のプラスにより  の値は増えてきていたのでしょうが、
おそらくそれでも補えないくらいに、
累積黒字の偏りがひどくなってしまったのだと思います。

日本経済において富の分配が失敗していると述べましたが、
この「累積黒字の偏り」こそがその本質だと確信しています。

従来の経済学では、この本質に気づけない

従来の経済学は、不自然なほど
所得を重視して貯蓄残高を軽視します。
その経済学をもとにして考えていると、
貧富の格差と言えば所得の格差にばかり目が向くため、
貯蓄残高の格差(≒累積黒字の偏り)に気づくのは難しいでしょう。🛎️ 「貧富の格差」と「所得の格差」の違いについては、
詳細版PDF文書を参照。

また、富裕層の累積黒字合計が上昇すると、
必ず富裕層以外の累積黒字合計が低下するという
制約の厄介さも見逃せません。

貧富の格差の拡大と言えば、
富裕層のさらなる富裕化と
非富裕層のさらなる非富裕化ですが、
その両者は別々に起きているわけではありません。
連動して起きているのです。

つまり、富裕層がさらに裕福になるのなら、
それは必ず非富裕層のさらなる非富裕化に繋がるのです。

日本経済の正常化を目指すには、
ここに述べた制約や因果関係をしっかり認識することが
スタートラインになります。

従来の経済学・経済政策が欠く視点

改めて、日本経済の現状を確認

いよいよ核心です。
バブル崩壊後の日本の経済運営が
なぜうまくいかないのか。

多くの政治家や経済学者を
長年苦悩させてきたこの問題に対し、
1つの答えをここに示します。

改めて、次の式をご覧ください。

(M+M) (M+M) (M+M)
政府部門 富裕層 非富裕層

ここでも、国際的な取引の影響は考えません。
すなわち、国全体の累積黒字合計()は一定です。

繰り返しになりますが、
ある経済主体の累積黒字が増加することは、
その増加の分だけ、他の経済主体の累積黒字が
低下することを意味します。

そして、累積黒字を大幅に増やした経済主体が
稼いだお金を使わずに貯め込むことは、
他の経済主体の累積黒字が大幅に減った状態が
続くことを意味します。

そのような富裕法人や富裕個人がたくさんいますと、
富裕層以外の経済主体の累積黒字合計
M-M-M = +M+M+M)が
大幅に下がった状態が定常化してしまいます。

日本経済において現実に起きているのも、
まさにこれだと思います。

大企業や資産家が累積黒字を伸ばす一方、
貧困層の人数は増大し、
中小企業の多くもぎりぎりの経営で、
国も地方自治体も火の車になっています。

現在の日本は、このような累積黒字の偏りに
苦しんでいるのです。🛎️ 日本だけではないですが。

我々を悩ませる問いの正体

さて、近年の日本政府は、
貧富の格差拡大や財政悪化の中、
次のような目標と制約を念頭に
経済運営を行ってきたはずです。

  • 非富裕層の家庭に生活の余裕を、
    中小・零細企業に経営の余裕を
    感じてもらえるようにしたい。
  • 国と地方の財政再建にも取り組まなければならない。
  • 富裕層については、とりあえずそのままでよい。

これらは、累積黒字の用語を用いると、
次のように言いかえられます。

  • 非富裕個人の累積黒字合計()や
    非富裕法人の累積黒字合計()を
    上昇させたい
  • 政府部門の累積黒字合計(+M)を
    上昇させたい
  • 富裕法人及び富裕個人の累積黒字合計(+M)は
    現状を維持する

これらを全て加えた +M+M+M+M+M は一定値です。🛎️ もちろん、国全体の累積黒字合計()と
等しい値です。

(M+M) (M+M) (M+M)
一定値 政府部門 富裕層 非富裕層

 ~  の各変数の値は常に変動します。
しかし、その6変数の合計値()が変化することは決してありません。

政府は、その制約のもと、 ~  の値を
コントロールしようと試みます。

 ~  の合計値は一定であり、その制約は絶対に崩せません。

 ~  のうちどれかの値を上昇させたら、
必ず他の変数の値が低下し、
 ~  の合計値()は強制的に一定値で保たれます。

この制約が常につきまとう中で、
 と  を変化させず、
残りの4変数( と  と  と )を
上昇させるにはどうしたらよいか
と考えているわけです。

どうでしょう?
どうしたらよいと思いますか?

問いの答え

もうお分かりのことと思います。

できるわけないです。

+M)+(+M+M+M)が
決して変化しないのですから、
+M)を減らさない限り、
+M+M+M)を増やすことなんて、
できるわけがないじゃないですか。

にもかかわらず、国や地方自治体は、
それを実現するべく真剣に知恵を絞っているのです。
皆で努力していれば、いつかは実現すると
信じているようにも見えます。

無理 なんです。不可能 なんです。
国や地方自治体がどんな策を弄しても、
富裕法人や富裕個人の累積黒字を減らすタイプの策でない限り、
絶対にうまくいきません。

うまくいかないことが、
数学的に証明されているようなものです。

富裕層を除く経済主体の累積黒字合計
+M+M+M)を増やしたいと思うなら、
富裕層の累積黒字合計(+M)を減らす以外にないのです。

しかし、富裕層の人々はそう簡単に資産を手放しませんし、
優良経営と言われる企業は黒字決算至上主義で、
ちょっと赤字決算になっただけでリストラに走って
累積黒字を減らすまいとします。
だから困るのです。

現時点では富裕層の人々を責められない

富裕法人や富裕個人が悪者みたいに書いてしまっていますが、
その人々を現時点で責めることはできません。

彼らが日本経済の閉塞の原因に
なってしまっているのは確かですが、
自分が周りに負の影響を与えていることに
気づいていないのですから。

いや、たとえ気づいたとしても、
良心から自分の資産を自発的に減らし、
その後不測の事態によって経済的に苦しくなったが
誰も助けてくれないなどということは避けたいでしょう。

責めるべきは、企業や個人による過度の資産保有を
全く防ごうとしない現行制度です。

資産の持ち方にも善し悪しがある

資産家が資産を持ちすぎるのは
社会に負の影響があると述べましたが、
資産の持ち方にも善し悪しがあります。

保有する資産の選び方次第で、
社会への悪影響を大きく軽減することができるのです。

詳しくは 詳細版PDF文書 で説明しますが、
結論のみ述べますと、
他者にとって負債とならない資産 を保有するのは、
累積黒字の観点では経済に負担をかけません。

例えば、預貯金は他者にとって負債になる資産です。
個人や法人が金融機関に預け入れた預貯金は、
金融機関側にとっては、
預金者に対する債務(お金を返す義務)
発生させるものだからです。

現金や預貯金を中心に資産を保有する資産家は、
他者の累積黒字の下落圧力になっており、
経済に負担をかけていることになります。🛎️ どんなにクリーンな手法で
稼いだお金であっても関係ありません。

一方、他者にとって負債にならない資産としては、
株式、貴金属、宝石類、美術品、
不動産、自動車などが挙げられます。🛎️ 家具や生活用品なども該当しますが、
換金性が低く実用性が高いものは、
売ってお金に替える手段に適さないので
ここでは挙げませんでした。

もしも、富裕層の方が経済への悪影響を
減らしたいと考えてくださるのなら、
非富裕層にとって必要性の低い資産を多く持ち、
現金や預貯金の保有額を
なるべく下げていただくのが良いでしょう。🛎️ 例えば、不動産や自動車、石油、食料などは
非富裕層にとっても必要なものなので、
一部の経済主体が集中的に保有することが
望ましくない資産です。
株式や貴金属、美術品等は問題ないでしょう。
🛎️ 経済的に余裕のない人が
無理をする必要はありません。

社会全体でそのような動きが活発になれば、
それだけで経済が劇的に改善される可能性
あると思います。

経済蘇生の鍵は、累積黒字の偏りの緩和

これまで見てきたように、現代の日本経済は
累積黒字の偏りに苦しめられていると考えて
間違いありません。

従って、日本経済の蘇生には、
累積黒字の偏りの緩和が不可欠です。

すなわち、富裕層の累積黒字合計(+M)を減らすことで、
富裕層以外の累積黒字合計
+M+M+M)の上昇を図るのです。

それは、漠然と景気対策をしていては
なかなか実現しないことです。🛎️ 現実世界において実現していないことが
何よりの証拠でしょう。

ややもすると、累積黒字の低い者どうしで
お金をかき回すばかりで、
富裕層の累積黒字合計は減らず、
よって非富裕層の累積黒字合計は増えないという
結果になります。

政策検討例:消費税減税はどうか?

景気対策の代表格としてよく話題にのぼ
消費税減税ですが、累積黒字の観点では、
根本的な解決には繋がらない評価すべきでしょう。

消費税を減税すると、
民間部門の累積黒字が増える分だけ、
政府部門の累積黒字が減ります。

富裕層の累積黒字合計(+M)を
減らす効果はほとんどないと思われますので、
累積黒字の偏りを緩和する効果も期待できません。

筆者は消費税減税に反対ではありませんが、
ここまでおかしくなってしまった日本経済を
根本的に治療するための決定打には
なりえないということです。

このような視点を持つと、
日本経済の根本治療に寄与する政策と
寄与しない政策の区別に役立ちます。

政策検討例:最低賃金の引き上げはどうか?

最近、最低賃金を引き上げようと
息巻く政治家が多いですね。🛎️ この記事を書いている
2024年10月時点での所感。
ちょうど、衆議院選挙直前の時期です。

それも、最低賃金(時給)の全国平均が
ようやく1000円を超えた程度なのに、
それを1500円以上にするなどと豪語する
政治家や政党をニュースや選挙公報等で
複数目にしました。

極端すぎて無理だろうというのが第一感ですが、
それ以前に、そもそも最低賃金の引き上げは、
日本経済の根本治療には寄与しない思われます。

以下、その理由です。

日本経済の正常化には、累積黒字の偏りの緩和が必須です。

そのためには、非富裕層の累積黒字合計(+M)を
大きく上昇させる必要があり、
そのためには、富裕層の累積黒字合計(+M)を
大きく低下させる必要があります。🛎️ 財政出動はしない、
つまり政府部門の累積黒字合計(+M)は
変化しないという前提です。

最低賃金の引き上げは、
その実現を促すでしょうか。

現時点で最低賃金程度の賃金しか出していない会社の多くは、
本文書で言う非富裕法人 に含まれる法人)
該当すると考えてよいでしょう。

したがって、最低賃金の引き上げは、
非富裕個人の累積黒字合計()を上げた分だけ
非富裕法人の累積黒字合計()が下がる政策ということになります。

 が増えた分だけ  が減るのでは、
肝心の +M は変化しません。

富裕法人 に含まれる法人)への影響も
皆無ではないでしょうが、
非富裕法人への影響に比べれば
微々たるものでしょう。

つまり、最低賃金の引き上げによって
富裕層の累積黒字合計(+M)が
大きく減るとは思えません。🛎️ 優良経営の会社ほど、
従業員への賃金が増えた分だけ
リストラ等で経費削減を行い、
黒字を死守しようとします。

しつこくて恐縮ですが、(財政出動しない前提では)
+M が減らない限り
+M が増えることはありません。

以上より、最低賃金の引き上げは、
非富裕層の累積黒字合計(+M)の
大幅な上昇を実現させるとは考えられず、
日本経済の根本的改善には
寄与しないと判定できるわけです。

このように、累積黒字が低い経済主体どうしで
お金をかき回していても、
経済の正常化は決して実現しません。

非富裕層の非富裕度を下げるためには、
富裕層の富裕度も下げる必要がある。

それを意識せずに経済政策を繰り出しても、
幸運な偶然がない限り空振りに終わるでしょう。

繰り返しますが、富裕層の累積黒字合計を維持しつつ
非富裕層の累積黒字合計を
増やそうとしてはダメです。
それは基本的に 不可能 です。

政府部門の累積黒字合計(+M)を減らすことなく
非富裕層の累積黒字合計(+M)を増やすためには、
富裕層の累積黒字合計(+M)を減らす必要がある。

それを頭に叩き込んだ上で、
累積黒字の偏りの緩和を意図して狙う政策を
繰り出していくことが求められます。🛎️ 富裕層から非富裕層への所得再分配政策
(ベーシックインカムなど)は、
安直ですが効果は大きいでしょう。

自国の M を増やそうとしてはいけない

自国の経済を改善するために、
国際収支のプラスによって国全体の累積黒字合計()を
増やそうと考えるのは良くありません。

自国の  を増やせば、
他国の  が同じだけ減るからです。

その方針が許されるのは、 の値が他国に比べて低い国だけです。

通貨発行や株価上昇で M は増える?

通貨発行や株価上昇によって、
実質的に国全体の累積黒字合計()は
増大するのでは、と考える向きもあるでしょう。

筆者も、その見解は一理あるかもしれないと思います。

しかしそれでも、本文書で主張した内容に
大きな影響はありません。

ある経済主体の累積黒字が増えれば、
その増加分と同じ額だけ他の経済主体の累積黒字が減る。
その大原則に縛られながら
この世の経済が動いていることは、
誰にも否定できないはずです。

そうである以上、富裕層の富裕度の上昇が、
非富裕層の貧困度を高める
直接的な原因になることも絶対です。

それを加味して、経済学を
見直していただきたいということです。

なお、筆者は、通貨発行や株価上昇によって
 は変化しないと考えてよいとの立場です。

日本で発行した通貨は日本銀行にとっては負債であること、
株は買ってくれる人がいなければ換金できない「商品」であり、
債権ではないことによります。🛎️ 詳しくは詳細版PDFを参照。

もっとも、通貨発行や株価上昇によって
 が上昇すると考えるとしても、
無限に上昇することは望めないと、
多くの人は理解しているでしょう。

過剰な通貨発行は自国通貨の信用不安や
ハイパーインフレに繋がりますし、
株価が無限に高騰しないことは、
90年代のバブル崩壊で身にみているはずです。

結局のところ、富裕層の累積黒字合計が増えれば
政府部門や非富裕層の累積黒字合計が減る、
その呪縛からは逃れられません。

通貨発行で何とかしようとしたり、
株価の上昇に期待したりするのではなく、
累積黒字の呪縛を理解して
うまく付き合うことが肝要なのです。

これが、従来の経済学や経済政策が
決定的に欠く視点です。

その視点の欠落がどれだけ深刻なことであるか、
ご理解いただけるのではないでしょうか。

日本経済の蘇生が成るかどうかは、
まさにこの盲点に気づくかどうかにかかっていると思います。

おわりに

詳細版もよろしく

以上が、拙論 <累積黒字の考え方>の骨格です。
本格的に興味を持たれた方は、
ぜひ 詳細版PDF文書 もご覧ください。

「詳細版」は長大で、その文章量は書籍に匹敵するため、
通読にはかなりの時間と労力を要しますが、
「詳細版」こそが本領であることを強く主張しておきます。

必ずしもその全部をお読みいただく必要はありません。

より重要な内容を選択して読めるように、
目次に多少の工夫を施していますので、
ご活用いただければと思います。

また、この概説ページで紹介した
「簡略版」の内容に関して
疑問や異論を持った部分があれば、
「詳細版」から対応する部分を
抜き出して拾い読みされるのもよいかと思います。

以上をもって「簡略版」は終了と致します。
よろしければ、「詳細版」にてまたお会いしましょう。

おわり。
お疲れ様でした。